2012/9/14(金)~9/17(月) 槍ヶ岳・北鎌尾根2012年09月14日 00:00

無名山塾、H方・Y氏企画の自主山行。自分との2名パーティ。
厳しいルートの、しかも湯俣から入るロングバージョンだが、天候に恵まれて無事に完遂できた。

■9/14(金) 晴~曇
今回は軽量化を特に意識したザックだが、出発前に量ってみると15kg超。これに共同装備の分担と尾根に取り付く前に水が入るので、22~23kg程度になるか。
11:01信濃大町駅に集合、食事してから予約のタクシーで高瀬ダムへ(\7900)。気温29℃、晴天。

12:40に歩き始め、ストーブもあって居心地の良さそうな名無避難小屋を経て 2時間ほどで湯俣温泉晴嵐壮に到着。
テント設営後、湯俣川の墳湯丘を見に行く。湧き出す湯の沈殿物が堆積したもので、対岸と川中のものとの二つを見られた。
湯俣川の墳湯丘
他の場所からも湯が湧いており、河原を掘って浸かっている人達がいる。我々も入ってみたかったが雲行きが怪しいのとH方氏が16時の気象通報を聞くと言うのとでテントに戻った。
気象通報によると東シナ海から日本海にかけて停滞前線が出現、富士山頂と御前崎の気温差が23℃あり対流性上昇気流に伴う夕立・雷雨の懸念があるため、明日は早発ちとする。
夕方から小雨となったがテント内は暖かで就寝時はシュラフ不要だった。さすがに夜半には寒くなって潜り込んだが。

■9/15(土) 晴~曇、小雨
2:30起床、4時出発。満天の星空。
水俣川に架かる吊橋を渡ると、湯俣川との間の尾根の突端に鳥居と祠がある。事前に読んだネット記録には水俣川左岸の高いところに道がついているとあったので神様に無事を祈って入っていくのかと思ったが、祠で行き止まりのようで吊橋の突き当たりから左岸の河原に下りた。しばらくそのまま歩けると思ったのだが河原はすぐに尽きたので、橋を渡らずに右岸に下りた方がスムーズだったかもしれない。
渡渉が多くいちいち登山靴を脱ぐよりも沢靴で歩く方が早いとアドバイスを受けていたので、ここで履き替える。ズボンは膝下を外して短パン姿。まだ要らないと思うが、一応ハーネスも着ける。最短距離で突っ切って右岸に上がると、水の冷たさで足が少し痛い。この後はできるだけ河原を進み、進めなくなると対岸に渡ることを繰り返した。今の時期、水量は少ないのだが、それでも場所によって股下まで。水流が強く体勢が不安定になる箇所は二人で組んで渡る。
途中、昔のフィックスの残骸と思われるロープが岩壁に下がっていたりする(後で聞いたところでは桟道があったとのこと)が、吊橋の跡などには出会わなかった。足元を注意していると単独先行者と思われる跡があるが人影は見えない。
6:30 千天出合(千丈沢と天上沢の合流点)に到着。

天上沢に入ると水勢が少し怖いくらいだが、特に困難な箇所はない。
天上沢
岩を乗り越し渡渉を繰り返し、やや大きな滝が現れると右岸に高巻がついている。
やがて左から枝沢が入ってきたのでコンパスを当ててみると、ちょうど対岸にP2へ続く尾根が出ている箇所だ。この先に水場は無いので枝沢で各自5リットルの水を汲み、最後の渡渉をして登山姿に戻る。濡れた沢靴が重いが、できるだけ水を切ってザックに突っ込む。ここまでハーネスはまったく不要だったが、改めて装着(終わってみると初めて使用したのはP6トラバースだったが、P4手前辺りでもルート取りを誤ると確保が欲しくなるかもしれない)。準備に時間を取って、7:20-50。

P2の取付きには赤テープがあり、そこから一直線の急登。踏み跡はほぼ明瞭だが笹に隠れるところもある。次第に傾斜が急になり、少々スリルを覚える木登りや岩場が続く。岩にこすれてすっかりバラけた捨て縄もあったが、それには頼らず木の根を掴んで上がることができた。
8:50 P2へ到着。ピークというより急傾斜を上りきって一息つける平坦地である。

この先はずっと藪との格闘。道は明瞭だがハイマツやシャクナゲその他に行く手を阻まれ、むき出しの腕は傷だらけ、ズボンは松脂のシミだらけ。下山後の温泉で気付いたが、尻にかぎ裂きまでできていた。
9:30にP3。標高2150m、高度が上がって展望が開けてくる。遠く北の三角形は針ノ木岳だ。
行く手にはP5、P6を望む事ができる。P5は樹に覆われているがP6は剥きだしの岩の絶壁。越えられるのかとビビる。
北鎌尾根P5・P6

P3から少し下りコルからまた藪漕ぎでP4に10:30。この頃になると青空の中にも雨雲がちらほらと見え出した。

ネット記録によるとP5手前に懸垂下降支点があり、そこを下りてからのガレ場のトラバースが非常に悪いとのことだった。しかし、行ってみると支点に出会う前に天上沢側へ下りる道がある。滑り落ちるような斜度でずいぶん下ってしまう様子なので、いったん戻って先を偵察すると懸垂支点が見えた。が、そこへ行くまでが既に悪く、その向こうに見える問題のガレも険悪だ。偵察点から下に見えるトラバースらしき踏み跡が急降下の道から繋がるものと推測し、安全を取ってそちらを行くことにした。
急傾斜を下りると確かにトラバースになっているが、草の斜面で踏み跡を見失う。ならば斜上して岩に乗った方が楽だろうと思ったが、上がってみると立てるような岩でなく手掛かりも草ばかりで難儀する。下を見ると草の中に踏み分けが認められたので、そこまでずり落ちた。踏み分け道を辿るとP5-P6のコル。ガレ場の危険なトラバースを避けられて一息つく(12:50-13:20)。

P6基部にはビバークサイトがあった。そこから被り気味の岩壁に沿って千丈沢側をトラバースし、ガレた登りに繋がっている。特に難しいルートではないが、右側は切り立っており重い荷物に振られてバランスを崩すと滑落の危険がある。30m補助ロープを出し、出だしに打ってあったハーケン2本でビレイしてH方氏がリードした。ガレを上がったところの残置ハーケンでピッチを切り、そこからは立ち木に中間支点を取ってトラバース。岩の乗り越しが少し難しく、ここはロープがないと竦んでしまいそうだ。終了点には立ち木を利用した。そこから潅木混じりの斜面を右上してP6に到着、14:20。
P6基部で一度降ってすぐに止んだのだが、この頃には雨雲が広がりいつ降り出してもおかしくなくなってきた。

P7は問題なく通過。北鎌沢のコルへ下りる途中に放置されていた雪山装備のザックは遭難者のものだろうか。とうとう降り始めたが特に難しい場面もなく、15時に北鎌コルに辿り着いた。
コルには先行パーティ(本日初めて会う他の人間だ)が4~5テンを張っており、我々の2テンを張るには少々狭い。もう少し行くとテントスペースがあるはずなので空身で偵察に出るが、行き会った人からこの先にもテントが張られていると聞いて引き返した(教えてくれた人は、コルが一杯と知って戻ったらしい)。

4~5テンの横、斜面ギリギリにテント設営。潜り込んで気象通報に耳を傾けると停滞前線はほとんど移動していない。これなら明日の天気も期待できそうだ。富士山頂-御前崎の気温差が25℃に達しており夕立は気になるが、明日の核心部は午前中~午後の早い時間に終わるはずなので大丈夫だろう。
運動が激しすぎたためか自分は食欲が湧かず、お茶とスープだけ摂る。H方氏は元気で持参したツマミ類を平らげていた。共同装備をH方氏が多く持っているにしてもいやにザックが膨らんでいると思っていたが、ツマミばかりかオカリナまで入っていたのには驚いた、というより呆れた。体力の向上ぶりはたいしたものだが。

テントは北鎌沢右俣からの道のまん前に張らざるを得なかったが、その道を夕方薄暗くなってから上がってくるパーティがあった。深夜2時前にも二人連れが装備を鳴らして到着。P8方向へ向かったようだが、この時間でどこに泊まるのだろうと思う。

■9/16(日) 晴
3:30起床、5時出発。今日も快晴。
歩き出してみると、P8までに数箇所のテントスペースがあった。実際に泊まっている人もいて、北鎌コルまでと比べると尾根が一気に賑やかになった。
フィックスロープもあるが特に頼ることもなくP8~P9を越える。ただし、P8で自分のメガネのツルが外れるアクシデント。新調したばかりなのにビスが緩むとはクレームものだが、遠方のディテールが見えなくてもとりあえず問題はなく、6:50に独標の基部。ここにも2テン2張、5テン1張りのビバークサイトがあり、登りにかかる前に休憩をとった。
(本峰まで行ってからの印象だが、北鎌のコルからこちらにはテントスペースが散在しておりトータルの収容力はかなりある。もちろん広い場所は少なく、またピーク上では雷に遭ったら怖いだろう)

独標はまず緑色のフィックスロープが張ってあり、念のためフェラータの要領でセルフビレイを取って通過。その先で踏み跡に分岐があり、左は岩の立った直登ルートでハーケンが打ってある。我々は千丈沢側のトラバースに入るが、途端に「ラク!」の声とともに前方に落石。直登ルートからだろうか。トラバース自体は特に難しくない。
トラバース終点にはハーケンが2本打ってあり、スリングが掛かっている。ネット記録ではここからスリングに乗って登ったが容易でないとのこと。前方は岩が被さるように出ているがハーケンが1本あり、ルートは続いている。進むのに問題なさそうだが、千丈沢側が切り立っているためロープを出すことにする。ハーケンで中間支点を取り、ちょっと外側に出た足場を使ってトラバース。結果的にロープを使うほどのことはなかった。
ロープを片付けていると2名パーティが追いついてきたので先に行ってもらう。その後にはストックを持った中年女性が来たので驚いた。ともかく、先の二人に続いてルンゼを登って独標のピークを目指す。ホールドスタンスに不自由ないが、ガレた箇所では石がずり落ちる。
8:00 独標。ピークは気分の良い草原に岩が出ている。ここでついに槍ヶ岳が姿を現した。
しばらく休憩して、槍ヶ岳に向かって歩き始める。
北鎌尾根・独標

P11~P12辺り(アップダウンが無数にあり、どれがどのピークか自信を持って言えない)は天上沢側にクライムダウンする。ハーケンに捨てスリングが掛かって残雪期は懸垂下降するという箇所だが、いったん下りたものの稜線から離れすぎる気がして暫くルートを探した。結局、ガレて足元の良くない斜面をトラバースしたが、ここは千丈沢側に楽に歩ける踏み跡があったようだ。
その後のアップダウンはなるべく直登を選ぶ。前後して進むパーティはほとんど巻き道を行くが、もったいないことだ。

10:30 P14に上がって休憩していると「開放骨折」という声が聞こえてきた。先ほどクライムダウンしたP11辺りで4人パーティの一人が負傷し、別パーティが救助要請(無線機? 携帯電話?)しているらしいが、ここにいて何もできることはないので先に進む。(後で聞いたところでは、懸垂下降したロープの先端を結んでいなかったためスッポ抜けたらしい)

P15は巻いて、いよいよ本峰の登り。
北鎌尾根から槍ヶ岳
大岩のゴロゴロした斜面には踏み跡もケルンやペンキも見えないが、稜線を目安に歩くと首尾よく北鎌平に出た(11:20)。休憩していると、赤いヘリが先ほどの事故現場へ一直線に飛んでいく。ホバリングして救助隊員を降ろし、周囲を旋回してから負傷者を収容して上高地方面へ去っていった。長野県警消防防災航空隊の「アルプス」である。カッコイイ。

最後の休憩を終え、槍ヶ岳山頂へ向けて登り出す。
踏み跡を辿ると、2本連続チムニーの一つ目に出た。ここは上部に捨てスリングがあるが、H方氏は使わずに右寄りに登る。自分は登り易い左に上がり、スリングで右に移った。その上のチムニーはH方氏が真ん中の出っ張りを抱えるように上がり、自分は岩の割れ目に挟まった小石をスタンスに右寄りをもっと楽に上がる。いずれもロープは必要なかった。
チムニーのすぐ上が山頂らしく、左手には木の杭も見える。H方氏が、ここは北鎌からの登頂らしく山頂の祠の裏からひょっこり現れたいと右へ向かった。トラバースに踏み出す部分で少し緊張するが、後は問題ない。山頂西側のリッジを登ると、狙い通りに祠の裏側へ出ることができた。
12:30 槍ヶ岳登頂、祠の前で握手を交わす。写真の順番待ちをしている人達の前で少々照れくさい。
北鎌尾根から槍ヶ岳登頂

自分たちも順番待ちして写真を撮り、良い気分で槍ヶ岳山荘へ下る。山荘からの上りは長蛇の列だが、下りはスムーズだった。
計画ではここでテント泊だが、まだ13時と早いので休憩後に横尾まで下ることにする。ベンチで休んでいるとテント満室の掲示が出た。我々も登頂が遅れてここに泊まらざるを得ない時間になっていたら、どうなったことか。

下りはH方氏がどんどん飛ばす。自分は脱水気味でくたびれたので、槍沢ロッジで持っていたテントポールをH方氏に渡して、先に下りてもらった。
ゆっくり、昭文社地図のコースタイムで横尾に到着(17:10)すると、ちょうどテントができたところ。ビールで乾杯し、平らなテント場のありがたみを満喫して就寝。

■9/17(月) 晴
いつまでも寝ていられずに横尾を出発、7時半前に上高地に到着。バス停で、前穂北尾根にかかっていたH見・K村両氏(無名山塾の仲間)にバッタリ。まっすぐ帰るとのこと。
我々は沢渡行きのバスを坂巻温泉で降り、露天風呂の営業(9:00~、\500)を待って入浴。沢渡で食事して帰路についた。

■今回のルート
北鎌尾根ルート_1

北鎌尾根ルート_2

北鎌尾根ルート_3

北鎌尾根ルート_4

※文中の「ネット記録」は http://homepage3.nifty.com/ にあった「やっぱり山が好き!」。この山行に当たっては大いに参考にさせていただいた。残念ながら現在は消滅しているが、記して感謝いたします。
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