2008/6/7(土) 最近の読書-『スピリチュアルワールド見聞記』2008年06月07日 23:00

K元・T氏の新刊『スピリチュアルワールド見聞記』を読む。
すでに唐沢俊一氏が的確な評を書かれており(*1)付け加えることもないのだが、以下、自分なりのメモ。

まず、読者を選ぶ本である。
なにしろカバー絵がこれだ。
スピリチュアルワールド見聞記
巨乳メイド(翼つき)に小さくメタボ男では、タイトルのスピリチュアルに関しては肯定派も癒し系もアンチも誰も手を出さないのではないか。メイド萌えのオタクは絵に惹かれて手に取るかもしれないが、今度はタイトルに躊躇しそうだ。すんなりレジに持って行くのは著者を直接あるいは過去の著作で知っている人ばかりという気がする。
本文は巨乳メイド(天使)と死にかけのメタボ男(植木不等式=K元氏。わー、ゴメンナサイ)の会話体で、しかもダジャレ多発。これも著者を知らなければ内容が薄いと感じることだろう。
さらに、巨乳天使は挿絵にも登場して、電車の中で読むのはちょっと恥ずかしいのである(わたしは読みましたが。さすがにカバー絵をさらす勇気はなかったけど)。

しかし内容は薄いなんてものじゃない。最初はスピリチュアルな主張に対して脳科学の知見をぶつけていく趣向かと思うが、それはほんの取っ掛かり。死後の世界なんてものはないと納得したい一方で信じたい気持ちを捨てられない(という設定の)不等式氏と天使の会話でスピリチュアル史が語られる。近代スピリチュアリズムの成立と科学(者)との関係、科学技術の進展に呼応した神霊観の変遷、ムーブメントとしての近代スピリチュアリズムが社会運動-差別撤廃、労働運動、植民地独立-と密接な繋がりを持っていたという指摘など、本書の後半は目から鱗の連続。

自分は死ぬのが怖い。今こうして考えたり感じたりしている「自分」が存在しなくなるのは恐怖だ。避けようのない死の後にも何らかの形で「自分」として存続したい。また、親しかった人が現世から消えた後も何処かにいて欲しいと思う。しかしその一方で、自然科学の知識に照らせば死後存続なんてありえないと分かっている。
そういう立場でスピリチュアルについては、信じたいことを信じ信念に沿って事実をも曲げる人間の性質によって古代から生きながらえ、昨今のブームは行き過ぎた個人主義がもたらしたもの、と考えてきた。それがどんなに一面的で底の浅い見方であったことか。また、自分はその人間の性質(弱さ)を離れて事実を見ていると考える思い上がり。それを本書で思い知らされた。

思い上がりの続きで、この一文も耳が痛い。
○科学技術のもたらしている果実をナニも考えずに享受するのと、スピリチュアルな主張をステキに思ってやっぱり深く考えずに受け入れるのと、その態度は遠くから見るといっしょ。(p.217)

・・・と、少々深刻な読書メモになってしまったが、基本的に楽しい本である。自分はE・キューブラー・ロス『死ぬ瞬間』、立花隆『臨死体験』を読んだ他は断片的な事前知識しか持たないが、本書はニヤリ、ヘェ、ホォという感じでたいへん面白く読んだ。
ただ、フランクルの『夜と霧』のくだりは別。書名は聞いていたが恥ずかしながら読んだことがなかったので、さっそく買い込んできた。良い本は次に繋がっていくものである。

最後に、たまたま気づいた誤植を。原稿も校閲も高水準と見受けられますが、再版の際には直されるといいと思います。>K元様
○p.209 電信線は付設されてませんけどね → 敷設
○p.223 俳優さんに主宰役に仕立てたの → 俳優さんを主催役に

*1:本記事はmixi日記からの転載。mixi内で唐沢氏の日記をリンクしていたのだが、転載に当たり以下、抜き書きしておく。
ツッコミ芸の粋も多々あり、そして最後は“人間の「現世」にとり、なぜ「来世」あるいは「生まれ変わり」といった思想が必要なのか”という目からウロコの(そして重い)指摘がある。(中略)なぜ、近代合理主義を身につけているはずの現代人がスピリチュアリズムを必要としているのか、というところまでを掘り下げている。(中略)
植木不等式の中には学究のキマジメさと、戯作者のフマジメさが同居している。今回はフィクションの形をとったエッセイだが、一度、この人の大戯作を読んでみたい気がするのは私だけだろうか。たぶん、平成の滝沢馬琴がそこに現出すると思うのだが……。

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