2006/7/25(火) 『日本沈没 第二部』2006年07月25日 00:00

この文章を目にされている方は『日本沈没』はお読みのことと思うが、なにぶん30年以上前の作品だし、一応概要だけ復習しておこう。
小松左京作品の中では『首都消失』などと並び、国家と国土と民族が一体となった「日本」の一部をSF的な大仕掛けで取り去ったらどうなるかをシミュレートする、むしろPF(ポリティカル・フィクション)に近い作品だ。
異変をいち早く察知した田所博士を始めとする学者、政治家、官僚、それに深海潜水艇パイロット小野寺らの現場による「D計画」で日本人の多くが海外に逃れたものの、日本列島は噴火と地震でずたずたになり完全に没し去った。その過程で日本および日本人論が語られる。政財界の黒幕、渡老人も印象的で、ラスト近くで付き従ってきた娘、花枝に言う。「赤子(やや)を生め。日本人でなくともいい、いい男を見つけて、たくさん生め」。そしてラスト、負傷した小野寺を乗せたシベリア鉄道は西へ向かって驀進し、末尾に「第一部 完」。

1973年に『日本沈没』を出した後、小松自身が「第二部 日本漂流」のための取材成果をノンフィクションやルポにまとめているのだが、そうこうしているうちに世界は激変し、小松も老いた。もはや単独での執筆は不可能となり、プロジェクトチームを組んで33年ぶりに形になったのが、この『日本沈没 第二部』である。奥付は小松と実際の執筆を担当した谷甲州の共著となっている。
舞台は列島沈没から25年後の世界。国土を失い、国民は世界各地に分散したが、日本政府は存続し、強力な「地球シミュレータ」を完成させていた。そんな中、かつての日本領に出現した「白山岩」を巡って中国が利権を窺う動きを見せる・・・

読み終えての感想を一言にまとめると、谷のPF作品。共著ながら小松らしさは感じられない。第一部の列島沈没に相当する大仕掛けである地球寒冷化も、自然科学で正当に議論される題材であるからSF的な面白みはあまりない。
ただ、寒冷化という問題意識は第一部完成時点で既に小松にあったそうである。また、国土を持たない日本人が存続し続ける条件を考察するのも、第一部からのテーマを継承、発展させたものと言える。

読み始めると、まず文体が谷で、海外に根付いたり、時に迫害を受けて流浪する日本人の描写も青年海外協力隊経験のある谷らしい。資源(白山岩や地球シミュレータ等)をめぐる政治的な展開は、架空戦記シリーズ「覇者の戦塵」に連なるものか。
ラストは無理にSFにした感じだが、その前のヒマラヤの夕焼けを眺めるシーンは、登山をし、山岳小説もものする、これまた谷らしい描写だ。

登場人物は、最初にワタリ准尉、続いて渡桜が登場し、第一部との繋がりを見せる。日本の首相もD計画の中核を担った一人だし、中盤以降には小野寺も登場する。しかし、その辺はオマケみたいなもので、第一部から通読すればより楽しめるという程度。忘れていても差し支えない。

緻密なストーリー展開は谷の持ち味だが、その分テンポは遅い。「第一部」や映画のようなスペクタクルを期待して手に取った向きには退屈かもしれない。しかし、小松読者としては、待たされた「日本漂流」の決着として読む価値は十分にある。ただし、現在ただ今の「日本沈没まつり」に乗る気がなければ、文庫を待ってもいいかも。

(2021/6/27)
この文章は熊大SF研OB会誌「天動説」の依頼でミクシィ日記をベースに書き、同誌16号に掲載されたもの。15年も経った駄文だが、ここに再掲させてもらおう。ブログ日付はオリジナルのミクシィ日記に合わせた。

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