2009/8/1(土) 第3回宇宙旅行シンポジウム ― 2009年08月01日 13:00
主催:(財)日本航空協会
会場:航空会館(東京都港区新橋) 7階大ホール
宇宙「飛行」ではなく宇宙「旅行」なのだな、と受付で配付された資料に入っていたクラブツーリズムのチラシを見て思った。同社は英ヴァージンギャラクティックと提携して、来年にも宇宙観光旅行を始める予定なのである(⇒ クラブツーリズム・スペースツアーズ)。お値段は20万US$=およそ2000万円。弾道飛行でこの値段は高いな・・・という感想を抱きつつ、シンポジウムが始まる。
基調講演は日本人初の宇宙飛行士、秋山豊寛(あきやま・とよひろ)氏。1990年12月にTBS宇宙特派員としてソ連の宇宙ステーション・ミールに滞在。その後TBSを退職し、現在は福島で農業を営む。
「宇宙開発ビジョンと宇宙旅行」という演題で「世界宇宙飛行士会議でのうわさ話など」と始めておいて、「二足歩行ロボットを月へ送るなど正気の沙汰ではない」といきなり国家戦略(今年まとまった政府の宇宙基本計画)を批判。資料として配布された「日本の有人宇宙開発シナリオ」(H21.3.6 宇宙開発戦略専門調査委員会 毛利衛)、2009年7月5日の朝日新聞「耕論 20XX年日本人が月面に立つ!」の毛利氏談話に述べられている「日の丸人型ロボット月面歩行計画」に対するものだ。あちこちの利害を調整してやれることだけをやっていたのでは駄目だ、夢に向かっていかないとアンビシャスなものは出てこない。国民に好奇心と生き甲斐を与える有人宇宙飛行を国家戦略に据え、国は民間の参入を促す法整備をせよ。有人宇宙飛行に向けて一歩一歩を進めていくことが夢を集約することになる。また毛利氏は「日本が独自の有人計画を持って事故で人命を失ったら計画そのものが消滅する」と言っているが、年3万人を超える自殺者を出し、老人に負担を強いる現状こそ命を粗末にする政治である。
秋山さん、熱い。宇宙に行った当時よりも想いが深まっているのではないか。人間が行ってこその宇宙開発という主張には全面的に賛成。
一般講演はまず、宇宙ベンチャーの集まりである米スペース・フロンティア・ファンデーションのアジア担当ディレクター・大貫美鈴(おおぬき・みすず)氏。演題は「世界の宇宙旅行をめぐる動き」。
アメリカでは国家の有人飛行計画を策定する委員会(通称オーガスティン・パネル)にベンチャーのXCOR(エックスコア)が加わっている。サブオービタル飛行には各社とも2~3000万円の費用がかかるが、すでに総計600人が払い込みを済ませているという。
次は日本航空協会/桜美林大学の橋本安男(はしもと・やすお)氏による「世界各国の有人宇宙開発と日本の立ち位置」。
毛利氏の言うほど宇宙飛行が危険なものとは思わない。中国は96年2月の長征3B事故で人口300とも500ともいう集落を壊滅させたが、その後事故を起こしていない。人を乗せることで安全性が高まる(Human Rated)。
日本独自の有人計画としては、アメリカが撤退(月以遠に注力)した地球軌道へ一度に送り込める人数を増やして(7席以上)コストを下げ、もって国際貢献すべきである。
続いてJAXA宇宙科学研究本部教授・山下雅道(やました・まさみち)氏の「火星で生きる」。他の講演とは路線が違って、研究が実を結ぶ頃には「ここにいる人は誰もいない」50年100年後を見据えた話となる。
排泄物循環利用(かつての日本では都市と近郊農村とで循環が成立していた。ヨーロッパでは伝染病の記憶で無理)、樹木栽培、和食ベース(小麦より米、ジャガイモよりサツマイモ)の食事など。しかし動物タンパクも必要と、カイコ・クッキーを会場に回す。主成分はオカラやサツマイモ粉でカイコのサナギは「少々、皮はむきみじん切りにして混ぜる」。自分も手を挙げて一つもらった。それほど不味くはないが積極的に手が出る味でもない。微かに昆虫くさい気もするが、原料を知らなければ味の薄いしっとりしたクッキーとしか思わないだろう。ケチャップでもつけたいかなぁ。
まとめのパネルディスカッション、コーディネータはJAXA技術参与で最近はNPO法人「子ども・宇宙・未来の会」に力を入れる的川泰宣(まとがわ・やすのり)氏。パネラーは秋山、大貫、橋本各氏に加えて、クラブツーリズムで宇宙旅行を担当する浅川恵司(あさかわ・けいじ)氏、三菱重工業(株)名古屋航空宇宙システム製作所宇宙機器技術部の川戸博史(かわと・ひろし)氏。
浅川氏「現在、南極点への旅行者は年間約5万人。国別の内訳や旅行目的はヴァージン社の宇宙旅行申込者と一致している。2020年には宇宙へ5万人程度を送り込むだけの輸送力ができる」。
川戸氏「夢は月で酒を飲んで死ぬこと。そのためには機体が必要なので三菱重工に入った」。自分も四半世紀くらい前に死に方を考えろと言われて「40歳(2001年、21世紀はまだ先だった)で月旅行して事故に遭う」と答えた覚えがあるので親近感を持つ。所属部署では将来宇宙システムの概念検討、技術要素の研究を行っており、企業としてまだ儲けにはならないがやってみろ、といった立場。
ディスカッションは残り時間が少なくてほぼこれまでの講演に沿った内容となったが、的川氏が会場に来ているその筋の方(聴衆として参加しているのだろうから肩書きは記さない)を名指ししたりして面白かった。壇上では計画に挙がった以上ロボット路線が見直されることはなく有人計画がモラトリアムのままじり貧になることを危惧しているのだが、それに対して会場から意外な発言。「最初は有人飛行は絶対に出すなと言われたのが中国の成功で風向きが変わってきて、なぜ有人を前面に出さない、となった。それなら二足歩行ロボットでワンクッション入れよう、と」。この話を聞けただけでもシンポジウムに足を運んだ甲斐があった。
ディスカッションのまとめとして的川氏「人類は20世紀に青年期から壮年期に入った。無茶のきく青年期と違って気をつけて生きないと滅びてしまう」「このシンポジウムも地に足がついてきた。来年はもっと参加人数が増えて、ハードウェアを作る人もたくさん来るといい」。
数十年単位で見れば確かに少し賢くなったが数百年を単位とすれば人類はまだまだ青年期ではないか(青年期に無茶して死んじゃう奴もいる)と思うのはさておき、ビジネスを含めた有人宇宙飛行推進の立場からの議論は聴いていて楽しい。
しかし、毛利氏は自ら宇宙に行ったにも関わらず有人飛行からずいぶん後退してしまった。立場上言えないこともあるのか。つまらない職など抛(なげう)って本音を聞かせて欲しいと思うが、あるいはその職にあってチャンスを窺っているのかしらん。
最近のコメント