2024/9/5(木)~9/9(月) 伊藤新道から高天原・雲ノ平 ― 2024年09月05日 00:00
昨年復活した伊藤新道(⇒ 北アルプス黒部源流/伊藤新道を歩く)を歩きたい。北アは高天原温泉や、「日本最後の秘境」雲ノ平を未経験なので、それと組み合わせよう。今回もまたT中・H氏と誘い合わせて、無名山塾の自主山行とした。
台風10号も9/1には熱帯低気圧に変わって沢の増水といった影響も残さず、行動中の天気もまずまずで、恵まれた山行だった。
■9/5(木)
武蔵野線が遅延していて予約のあずさに間に合わないかと焦ったが、紙の切符を買うために早めに出たのが幸い、無事に立川から乗車できた。
信濃大町で駅蕎麦を食べてから予約のタクシーで七倉山荘へ(7800円)。高瀬ダムへの道は落石で一部不通との情報だったが、七倉で乗り換えたタクシーは落石箇所で客を降ろし、復旧工事中の道をダム側へと走り抜ける。乗客は貸出用ヘルメットを着けて落石箇所を歩いて通過し、待っていたタクシーに再び乗車(七倉~高瀬ダム 2300円)。
ダムに上がると、雲はあるものの晴れ。
テント泊は1張2名で計3000円(入浴は省略)。テントは今回、自分のダンロップVS-22Tのデビュー戦となる。ここで気付いたのだが、T中氏は名無避難小屋以降の何処かでザックに付けていたマットを落としており、今回テント3泊をザックを敷いて凌ぐことになった。
それはともかく、売店で缶ビールを買い、小屋前のベンチで入山祝い。
■9/6(金)
5時前に出発。晴れ。すぐ水に入るので足回りは沢向けなのだが、自分の持っている沢靴はフェルト底の古いものなので、ラバーソールのマリンシューズ(今回アマゾンで購入、2360円)にネオプレーン靴下の組合わせにした。ヘルメットも着ける。
吊橋で水俣川を渡って山の神の祠に挨拶し、湯俣川の河原に下りる。前回来た時(⇒ 2012/9/14~9/17 槍ヶ岳・北鎌尾根)には対岸から眺めた噴湯丘を、今回は近くから見物。前後して通過していくパーティがある。
右岸を数分進むと岩にロープが付いており、いよいよ伊藤新道に踏み込む感じ。続けて、岩の上から足を伸ばして斜面を削った足場へ移る箇所は、乗り込む時に滑りそうだ。
伊藤新道HP掲載のルート図にある「笹薮高巻き」は、歩きやすい箇所を探すとロープ付きの踏み跡が目に入った。
第一吊橋は健全だが、ゆらゆらと揺れる。伊藤新道の沢パートには第五吊橋まであるのだが、第二と第四は「吊橋跡」で、そもそも旧伊藤新道のまま復旧していない。第三と第五は昨年は渡れたのだが、今年は利用不能とアナウンスされており、結局、使えるのはこの第一のみだ。
ガンダム岩は、T中氏はステップを使って上から、自分は流れに入って下から通過(下の写真右は岩の裏側)。
ガンダム岩を越えた左岸の水場は、目立つ支沢(一ノ沢)の手前に汲み易い水流があった。
次に、左岸に付けられた「桟道30m」は最近岩の崩落があるので利用せずに右岸を行くようにと、Webでも湯俣山荘でも注意喚起されている。実際、(増水がなければ)右岸が十分に歩きやすい。
二つ目の「笹薮高巻き」は、右岸に笹を刈り払った斜面が見えている。
もはや何回渡渉したり岸沿いの岩をヘツったりしたか分からない。渡渉ポイントには岸の岩の上に小さなケルンが積んであることが多いが、深いところは股上まで浸かり、また、流れが強く、足探りする川底に段差があってよろけそうになる箇所もあった。
河岸を行くのにも、大岩を乗り越えるのにマリンシューズでは滑って難儀する場面あり。
第三吊橋はこの写真のありさま。
ワリモ沢出合の第四吊橋跡辺りまで来ると空が開けてくるが、なおも渡渉を繰り返す。第五吊橋も少し上流を渡って、沢パート終了。底の薄いマリンシューズでは、後半、石を踏む足裏が痛かった。
出発から4時間弱、ほぼHP記載のコースタイム(4.5時間)だった(昭文社山と高原地図では5時間)。周囲では数パーティが靴を履き替えている。我々も日陰に腰を下ろしたが、陸上仕様に換装しているうちに太陽が崖の上から顔を出した。
9:15、伊藤新道・山パート開始(標高1670m)。
地形図で見るとそれほどとは思われないが、最初の急登がヒドい。たちまち谷が眼下になり、さらに登るとハイマツの平坦地(1800m)に「茶屋建設予定地」の札がある。せっかく稼いだ高度を赤沢へと急降下すると、岩の堆積の間に伊藤新道では希少なペンキマークあり。しかし、その先で沢に沿った踏み跡がどうも怪しく、「ここは上に行くのでは?」と思うが、左手斜面の大岩にはバツ印。逡巡していると、上からT中氏の声が掛かった。バツ印より手前の岩に緑のロープが下がっているのを見落としていたのだ。ロープを掴んで上がると、HPルート図の「みどりのホース(迷いやすい)」地点だった。
その後は枝を括った縄梯子やトラロープの連続する本当の急登だが、道は明瞭で、ルート図に(旧道への誤進入注意)とある辺りも迷うようなことはなかった。休み休み、第五吊橋を後から出たパーティに追い越されつつ高度を上げると槍ヶ岳が穂先を見せ始め、展望台(2140m、11:30)からは硫黄尾根の向こうに北鎌尾根という絶景を拝める。
緩やかに尾根を上がってトラバースに入ると、槍ヶ岳も角度を変えていく。
2536m点で鷲羽岳への縦走路と合流して伊藤新道を抜けた。
三俣山荘に13:45到着、本日の行動は8時間50分だった。
テント(2000円/人)を張った後、小屋で買った缶ビールを2階食堂のカウンターで飲む。ここも正面に槍ヶ岳の絶景。山荘スタッフがサイフォンで淹れているコーヒーが実に美味しそうだ。テントに戻るとお隣がガイドの男性(仕事の合間で独り)で、伊藤新道は第五吊橋からそのまま沢を進んで赤沢に入った方が面白い、ロープを使う箇所は無く、綺麗な淵も見られると教えてくれた。
■9/7(土)
本日は高天原山荘まで、地図のコースタイム7.5時間とそれほど長くないので、5時半に出発。前方、鷲羽岳の上半はガスに隠れている。
風に吹かれて登ると、登山道から一歩外れて鷲羽池を見下ろす位置(地図では池まで破線道が付いている)が休憩にちょうど良い。
鷲羽岳(2924.4m)には7時に登頂したが、ガスで眺望もないので腰も下ろさずに通過。
ワリモ岳(2888m)手前の岩場は自分が先行。T中氏がなかなか姿を見せないと思ったら、オコジョが出てきたので写真を撮っていたと。
ワリモ岳分岐を過ぎて再び県境稜線に合する手前で、ハイマツの間にライチョウが姿を見せた。両親にヒナ4羽ほどの一家のようだ。
8時半、水晶小屋に到着し、ベンチで休憩。小屋前でユーチューバーらしき若い白人女性が自撮り棒を使って動画撮影している。先に出発した彼女と水晶岳山頂でまた会ったのでT中氏が声をかけたところ、チャンネル登録者多数のアリョーナ氏(⇒ YouTube/安涼奈の山登り)だった。動画より実物の方が美人だ。
水晶岳(南峰、2986m)に9:15登頂。ガスで眺望なし。
ガラガラと岩の積み重なる狭い山頂を避けて腰を下ろしたところで、ポールの一方の石突がバスケットもろともなくなっていることに気付いた。とりあえず上から力をかけて突く分には問題ない。
北峰の三角点(2977.9m)は確認せずに通過、左手の凹地に雪渓が残る。温泉沢ノ頭まで行って休憩。赤牛岳方面はガスだが、山名の由来となったのであろう赤茶色の稜線を進むアリョーナ氏、こちらへ向かってくる単独者が見えた。指導標の「この下に、日本の秘湯 高天原温泉があるよ」の案内が能天気だ。
高天原温泉へは地図の破線ルートで約800mの下降。樹林帯に入るまではガレあるいはザレの急降下だがペンキマークが豊富で迷うことはない。樹林帯から最後にロープを伝って温泉沢に下りたところで、赤牛の方から来た単独男性が追いついてきた。会話してみると、三俣山荘から赤牛をピストンし、温泉に入ろうとこちらに来て、三俣山荘に戻ると言う。すでに11時半、軽装の上にルート把握も不十分な感じの受け答えはかなり不安だが、先に下って行った彼とはその後擦れ違うこともなかった。あとは沢沿いの下りだが、途中で水のなくなった後に右から来た水量豊富な流れと合流したので、ここを登る場合は正しい枝沢に入るよう注意が必要かもしれない。渡渉回数は山と高原地図の「数回」よりも多かった印象だが、ペンキマークを拾って行けば靴を脱ぐ必要はなかった(増水すると一部に厳しい箇所はある)。
12:30、高天原温泉に到着。空の湯舟(壊れている?)に続いて白濁した湯を湛えた野湯(男女共用)、対岸に二棟の囲い付き露天(男性専用、女性専用)がある。
T中氏は野湯の前でさっさと服を脱ぐが、自分は入浴前に夢ノ平まで往復することにした。竜晶池までは樹林の道を10分ほど。美しい池の水面にトンボが産卵していた。
戻るとT中氏は湯から上がったところで、先に高天原山荘へと向かう。入れ替わりに野湯に浸かると、実に良い、最高の湯加減だ。そこへ山荘の方から来た男性も入ってくる。明日、温泉沢ノ頭へ上がるという二人組は囲い付きの方に行った。
30分ばかり温泉で過ごして心身ともにすっかりとろけてしまい、山荘まで20分の緩い登りが辛い。湯に行く人達と擦れ違い、14時に山荘到着。受付はT中氏が済ませてくれたので、そのままベンチで缶ビール。
山荘は1泊2食で13000円。ずいぶん久しぶりの小屋の食事は、ご飯がよく炊けていて美味しかった。我々の割り当てられた2Fは昔ながらの雑魚寝スタイルだが、グループごとに一人(布団1枚)分のスペースを空けてあったようだ。
■9/8(日)
5時の朝食に集まった人数は夕食から半減。早出して長く歩く登山者が多いのだろう。こちらも本日のコースタイム9.5時間とやや長いが、雲ノ平がメインで山というほどのものは無いので気楽だ。
曇り空の下を5:40に出発。小屋のすぐ下は池塘の草原。岩苔小谷を角材を組んだ橋(小屋閉め時に撤去するのかもしれない)で渡り、登りに掛かる。平坦地に出て一休みすると、そこが高天原峠だった。地図で山荘から1:30のところを0:40しか要していない。顔に雨を感じるが、雨具を着けるほどではない。
峠から南下して雲ノ平へ。樹林の中にハシゴが連続する急登をこなすと、ハイマツやササの間の木道になる。この辺はスマホが通じた。「雲ノ平の森の道」の看板でまた樹林に入り、それを抜けるとチングルマなどの花(ほぼ終わっているが)と草紅葉、ハイマツ、岩のミックスされた、いよいよ「日本最後の秘境」かという風景が現れる。この辺りが「奥スイス庭園」か。
2576mの電波塔から下っていくと、石突の失せたポールが地面に刺さり、持ち上げる拍子に連結部がすっぽ抜けた。これ以上の使用は危険なので、以後は一本のみで行く。下りのバランス保持に両手を使ってきたのが片一方になり、ちょっと頼りない。
歴史の感じられる佇(たたず)まいの雲ノ平山荘を通過し、「ギリシャ庭園」を進む。岩山の風景がギリシャ風だろうか。
分岐から、「アルプス庭園」祖母岳(ばあだけ)を往復。ナナカマドの実が赤く色づき、わずかながらブルーベリーやキイチゴが残っていた。
「奥日本庭園」は刈り込まれた松を配した庭のイメージか。「アラスカ」はどんなイメージだか分からない。
2464.1m三角点は気付かずに通り過ぎ、木道が途切れる。2350mから地図に「急坂、ハシゴあり 滑りやすい」とある、角の取れた岩がゴロゴロして短いハシゴが次々に現れる急降下。靴底が硬目なので岩に足を下すたびに滑らないかと気を遣って疲れた。T中氏は軟らかめの靴でどんどん下りていく。
ようよう薬師沢出合(1912m)へ下ると、大東新道入口の「高天原」の文字が楽しい。
薬師沢小屋で休憩(10:50~11:20)、コーラ(700円)が旨い。河原からハシゴを登って吊橋を渡るというロケーションで、黒部川・上ノ廊下~奥ノ廊下を遡行するとここに辿り着くことになる。
小屋からひと登りするとカベッケヶ原の木道。帰宅後に読んだ『定本 黒部の山賊』にはカッパをはじめとするバケモノが出るとあるが、現在、そんな怪しい雰囲気は無く、少し行けばベンチも設(しつら)えられている。左俣出合(第三渡渉点)、2074m地点前後の沢(第二、第一渡渉点)も難なく橋を渡った。
最後の登りをこなして、太郎平小屋に13時半到着。テント受付はさらに20分先の薬師峠にあるキャンプ場だが、500mlの缶ビールはここにしか無いので1本ずつ買っていく。
14時、太郎平キャンプ場に入って本日の行動終了。テントを張り、ビールを飲みながら眺めていると、大学山岳部の男子グループ、女子グループ、ツェルト泊の髭の老人と娘(?)、単独、いろいろといる。
■9/9(月)
予約のタクシーは折立に9時なのだが、周囲の早立ちに目が覚めて5時に出発。日の出を前に水晶岳~黒部五郎岳の稜線が浮かび上がる。下の写真中央の黒い塊が雲ノ平で、そこから手前に急降下してきたことになる。
下界は雲海に沈み、左手(西南西)遥かは白山のようだ。
7:50、折立に下山。タクシー会社に電話が通じて、予約より早く来てもらった。
有峰口駅までタクシー料金10410円+有峰林道通行料2000円。5年ぶり(前回 ⇒ 2019/9/1~9/4 薬師岳)の駅舎は外装が綺麗になっていた。中身は以前のままだが。
■今回のルート
↓全行程
↓ 9/5(木):高瀬ダム~湯俣温泉晴嵐荘
↓ 9/6(金):湯俣温泉晴嵐荘~伊藤新道~三俣蓮華岳キャンプ場
↓ 9/7(土):三俣蓮華岳キャンプ場~鷲羽岳~水晶岳~高天原山荘
↓ 9/8(日):高天原山荘~雲ノ平~薬師沢出合~太郎平キャンプ場
↓ 9/9(月):太郎平キャンプ場~折立
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