2007/6/22(金) 小松左京『地球を考える』 ― 2007年06月22日 00:00
ワープロソフト一太郎のジャストシステムが出版をやってた頃の「小松左京コレクション」(⇒ 第1巻:国立国会図書館サーチ)。
10年以上前に新刊で買い揃えたが、「コレクション」であるから内容はさらに前。主な読書時間が通勤電車という身分なので厚くて重い本はつい後回しになっていたのだが、小松御大の最近の活躍に触発されてやっと読んだ。
「未来の思想」はオリジナルの中公新書で読んでいたが読み返しても刺激的。
「継ぐのは誰か」こんな素朴な話だったっけ? 角川文庫で読んだのはもう四半世紀も前だったか...
全5巻の最終巻「地球を考える」は初読。
中身は1971年の対談集である。これがどれくらい古いかというと...
> 小松:今ぼくが書いている『日本沈没』という、ちょうどその話と同じような
> ことが起るSFのプロットを話したことがあるんですが、(p.339)
同じというのは、ユダヤ人が世界に散ったのと同じように日本人が地球にばらまかれること。30年の時を経て『日本沈没 第二部』でそのテーマはやっと完結した。
> 武者小路公秀:このごろテレビで、子供と一緒に一生懸命見ていたんですけど、
> 宇宙の「UFO」の襲来から地球を守るシャドー組織とかいうものの対策のたて方、
> あれは非常に心理学的にも政治学的にもおもしろいと思ったんですけど (p.341)
はい、子供のわたしは夢中になって見てました。今はDVDで持ってます「謎の円盤UFO」。
> 大来佐武郎:核融合は可能だとしても、西暦二千年ぐらいになるでしょう。(p.298)
出来なかったなぁ核融合。宇宙旅行と同じく実現の遅れた技術だ。ちょうど今朝の朝日新聞にトカマク型の実験炉が年内にもフランスで着工という記事があった。実用化は早くとも今世紀後半、と。
自然科学や哲学の話題は今読んでもそれほど違和感はない(そもそも哲学は分からんw)。
一方、技術や国際政治の話題はさすがに古びるものの、自分はものを知らないので未だに有効と感じる部分もあって...
> 小松:コンピュータによって、いろんな社会生活が簡単に手早くできるようになる
> のは便利だけれども、それが社会的にインテグレートされたときに、スピード
> アップによって妙なことが起ってくる可能性がある。今の社会システムの中に、
> 情報の「遅れ」みたいなことが、ある意味では余裕(リダンダンシイ)をたくさん
> つくり出していて、間違いが起ったときに、サブ・システムで修正されているの
> かも知れない。(p.254)
自分もITで飯を食っている人間だが、スピードだけでなく情報の緊密度(ユルさの効用?)の面について、現在でも考えるべき問題と思う。
> 小松:テレビを利用すれば、ある程度の変革もできるんじゃないか。(中略)
> 子供が親とは少し違ったシンタックスでコトバをしゃべり出す。(中略)
> その子供たちが親になって、次の子供たちを育てるときに、また少し変化が
> 出てくる。(中略)ドラスティックな変化をもし意図的にやろうと思えば、
> ある程度までのことは、できるかも知れんという気がしますね。(p.275)
情報の発想や使いこなしに関してコトバの持つ重要性を論ずる中で出た発言。多分にSF的な発想だが、社会主義とか専制国家で試みたところはないのだろうか。あるいは、現代社会はすでにテレビによる変革の結果なのかもしれない。
> 貝塚茂樹:中国みたいな国は、別に国民一般に国際知識を植えつけんでもいいじゃ
> ないですかね。(中略)でも、相当上の階級は、よく知ってますね。文革以後と
> いえども、知識階級と一般人、とくに貿易をやっている連中や何かと、一般人の
> 差はありますね。
> 小松:そういう考え方も、--つまり「知らさんでも指導してやればいい」という
> のもやはり中国のベーシックな文化じゃないかという気がするんですが。(p.390)
さすが四千年の歴史を誇る中国、30年や40年では変わらんな。インターネットが普及しても検索サービスには政府に都合のいいフィルタをかけさせるとか。階級間の差は経済開放が進んでさらに目立っている気がする。宇宙開発を強力に推し進める先見性(その点、日本はかなりダメ)と、子供をさらってきて奴隷労働させる野蛮さが同居している国だ。
しかし、
> 貝塚:中国をこわがる必要もない。逆に中国を日本流にやれとかデモクラシーの
> 世界にするとか、資本主義の世界にするとか、そんなこと考える必要は全然ない。
> 要するにつきおうていけばいい。(p.394)
という、これもまた変わらないこと。
小松御大の仕事の集成として、現在『小松左京全集 完全版』(⇒ 第1巻:国立国会図書館サーチ)が刊行中だが、これは高すぎるし重すぎる。オンデマンド出版ならデータは完全に電子化されている訳だから、10年も待てばダウンロードして読めるようになるだろうと期待・・・って、それから始めて読むのに何年かかるんだ?
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